2012年 初夏号

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官 田村学さんに聞く

新学習指導要綱の実施から1年
言語活動の充実で「活用型授業」へ

新学習指導要領が実施されて1 年。確かな学力の形成を目指して「習得」「活用」「探究」という学習活動の充実が求められています。授業でこれらの活動にどう取り組めばよいかを、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官の田村学さんに聞きました。

田村 学

田村 学(たむらまなぶ)
1962 年新潟県生まれ。新潟大学教育学部卒業後、上越市立大手町小学校教諭、上越教育大附属小学校教官などを経て、新潟県柏崎市教育委員会指導主事。2005 年から現職。国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官も併任。

知識の活用力が社会の基盤になる

― 新学習指導要領で、「習得」「活用」「探究」を具体的に提示した理由は何でしょう?

 田村さん(以下、黒字部分省略)今回の改訂では思考力・判断力・表現力という、より高次な能力の育成が望まれています。ドラッカーが言うように、21世紀は社会の基盤が労働力や資源ではなく、情報や知識に変わり、知識基盤社会になるという考え方が背景にあります。そうした社会では、知識は常に更新されます。暗記するだけではなく、コアとなる知識や技能を活用できる人材を育てるために、「活用する」学習活動が大切だという議論が深められてきました。

―「習得」や「探究」はイメージしやすいのですが、「活用」はどうとらえればよいのでしょうか

 習得と探究をつなぐものとして、「活用」を位置付けています。習得とはいわば、繰り返しの反復学習です。これまでも日本の先生方は、子どもが主体的に取り組め、楽しめる工夫をして上手に指導してきました。

 例えば、算数で二けたのかけ算で●×○=463という問題を出します。463は大きな素数で正解はないため、子どもたちはあれこれ考え、結果的に繰り返しが生まれます。答えの中で多いのは21×23。子どもたちは一の位が3だから1×3と考え、数の大きさからだいたい20前後だと想像します。そこには、かけ算九九や数の概念など、既習の学習内容をいろいろと使っているわけです。

 それがまさに知識を活用する学習活動。これまでも実はやっていたことを、もっと積極的にやっていこうということです。

楽しい授業は習得と活用が一体に

―「活用する」学習の授業で、気を付けるべき点は?

 習得を終えてから、活用と探究に移るのでは、学習が楽しくなくなります。習得と活用は、段階を経てステップアップしていくというよりも、同時進行で一体的に学習していくことが大切です。

 例えば、体育の授業でサッカーをする場合、習得であるパスやドリブルをずっとしていても、楽しくありません。ある程度、基本的な知識や技能を習得したら、ミニゲームなどで活用することによって、子どもたちの学習も豊かに展開します。

―活用する力を育てる具体的な手立てはありますか。

 それがまさに言語活動です。先ほどの算数のかけ算でも、子どもたちが話し合い、意見交換をしていくことで知識を活用することが積極的に行われます。文字言語や音声言語を積極的に使って、情報のインプットとアウトプット、相互作用のコラボレーションを進めていくと、知識を活用する場面が多く出てくると思います。

 PISA(経済協力開発機構による学習到達度調査)が求める能力は、知識をたくさん入力して暗記するのではなく、暮らしの中にある問題状況を解決するときに、自分たちの知識や技能がいかに「使えるか」ということ。まさに活用という学習活動にフィットする。決して目新しいことではないので、今までの授業をもう少し丁寧にやっていただければいいのだと思います。

 補完する手立てとしては、板書やワークシートなどで可視化するような工夫があります。話し合いや意見交換でも、ホワイトボードを置いて話し合うだけで理解が促進されます。さらに、カードになったものを仲間分けするような操作性を持たせると、よりディスカッションが進みます。

活用から探究へ考える力を育成する

―実際の授業では、時間が足りないことが問題になりませんか。

 アメリカのパデュー大学のカービック博士の研究で、確認テストと復習のやり方を組み合わせた実験結果があります。テスト後の長期記憶を調べたところ、間違った問題だけを再テストしたグループより、全問を再テストしたグループの方が知識の定着率が高いという結果が出ています。

 単純にテストを増やせということではなく、覚えた知識を活用する機会が多いほど、知識が残る、定着につながるということです。このことを知ると、授業でも活用に対する意識が変わるのではないでしょうか。さらに言えば、知識をただ暗記するだけではなく、身の回りのことや暮らしのことなど、自分と関連付けると知識のネットワークがより強固になります。

 活用の重要なポイントは探究に向かうかどうか。まさに今回の総合的な学習のテーマは「探究」です。探究のプロセスとは(1)課題の設定 (2)情報の収集 (3)収集した情報の整理・分析 (4)まとめとしての表現や発表―です。これをスパイラルに繰り返すことで、このプロセスに活用する学習活動が頻繁に現れることになります。それが「考える力」の育成につながるのだと思います。

 同じ教科の中での活用はもちろん、教科をまたいだ活用など、印象的な活用が大切。小学校の場合、先生が各教科を俯瞰し、その関連を把握して教えると子どもたちの理解が違ってくると思います。

言語活動を充実させる指導Point/事例

【1】 体験から感じ取ったことを表現する
体験学習で感じたことを言葉や絵・歌・身体で表現する
【2】事実を正確に理解し伝達する
身近な自然や公共施設の見学の結果を記述・報告する
【3】概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用する
衣食住・健康などの知識を活用して自分の生活を管理する
【4】情報を分析評価する
国の文化や歴史などを調べ、分析したことを論述する
【5】課題について構想をたて実践・評価・改善する
仮説を立てて理科の実験を行い、その結果を整理し表現する
【6】互いの考えを伝え合い、自らの考えを発展させる
将来の予測などの問題をディベート形式で議論を深め、解決策を導く
 
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