2012年 初夏号
学校と社会を結ぶ出前授業は
教育の活性化に必ずつながる
独自のノウハウで、サイエンスを核にした“先端科学教室”を展開する「リバネス」。代表取締役CEO の丸 幸弘さんに、今、学校の授業を社会がどのようにサポートできるのかを聞きました。
最新の科学技術が授業になるまでのタイムラグを補完
―先端科学と教育現場をつなぐ必要性を感じたのはどのような背景からなのでしょうか?
企業や大学の研究所で最先端の科学が生まれても、それが学校の授業に取り入れられるまでには、どうしてもタイムラグがあります。例えば遺伝子の授業についても、アメリカやシンガポールではカリキュラムに入っているのに、日本の小学校ではなかなか導入されない。そこで、新しい科学技術が生まれた瞬間に、それを教材化して小中高校に届けるようなエデュケーションシステムを作ろうと考えました。研究所と教育が連動すれば、新しい科学や技術を短期間で授業にすることができます。
―サイエンス教育推進の目的は?
「よく理系の人を増やしたいの?」と聞かれますが、そうではないんです。太陽光パネルの先端科学教室をしたからといって、将来技術者になってほしいわけではない(笑)。子どもたちにはエネルギーとは何かを知り、技術の背景にあるものを知ってもらいたい。それによって環境に興味を持ったり、町おこしに興味がわくかもしれません。科学や自然を知ることで、その背景を感じてほしいんです。 そのきっかけが先端科学教室にはあると私は思います。
―どんなプログラムが人気ですか?
「いのちの教育」がとても評判がよかったですね。「いのちは大切だよ」と言葉で言うのではなく、DNAから入る授業です。
DNAは生き物の設計図で細胞の中にあり、どんな生き物も持っている。自分が持っているものをすべての生き物が持っているというのはすごく不思議ですよね。DNAの仕組みを知ると、生き物や地球全体がつながるんです。つまり命のつながりをDNAを通じて知ることができる。
これは僕らの予想以上に子どもたちの刺激になりました。医者になりたいと思う子が出てきたり、地球環境を考える子が出てきたり、宇宙に興味を持つ子が出てきたり。子どもたちの好奇心はすごいんです。
実社会とつながる授業は子供たちの「きっかけ」になる
―先生にも刺激がありますね
授業での先生の話し方や、子どもを引きつける技術はすばらしいですが、サイエンス教育はある程度科学を知っていないとできないところがあります。
理科の授業が単なる実験ではなく、科学が生み出すストーリーなのだということを理解してもらえると、いい連携ができると思います。先生方の授業が良くなれば、子どもたちの教育がそれだけ豊かになり、将来の可能性も広がります。
―企業とはどう連携していますか?
今、約100社の企業とともに「教育応援プロジェクト」を実施しています。参画企業には教育に主体的にかかわることで、いろいろな意義やメリットを感じてもらえる。たとえば、乳酸菌の話を実際のメーカーの人から聞けば、子どもたちは授業で習ったもの(=商品)に興味を持ちます。それは会社のPRにもつながり、将来は優秀な人材が会社に入る可能性もある。これは単なる協賛ではなく"投資"ですよね。学校の授業を直接ビジネスにするのではなく、そこで優秀な人材が生まれて、いつか企業の利益になればいい。いい授業は子どもの心に残ります。私たちは企業の持つ科学をストーリーにして、仕組みを設計し、学校と実社会の持つ技術をつなぐ役割をしています。社会とのつながりというのは子どもたちにとっては一番インパクトのある「きっかけ」です。
先生方とよく話して現場ニーズに合ったプログラムを
―授業プログラムを作る上で気をつけていることは?
理科に限らず、どんな教科でもプログラムを作るには現場感がすごく大切だと思います。一番間違えやすいのは、企業が伝えたいことだけを授業にしようとすること。いくら社会貢献のために出前授業をやりますといっても、教育現場のニーズに合っていなくてはダメなんです。授業は企業の自己満足の場ではなく、「子どもを育てる場所」。このキーワードがぶれないようにしています。まず、学校で先生と話し、現場のニーズを聞くことから始めるので、企業からのプッシュではないプログラムが作れます。 “サイエンスブリッジコミュニケーター”・・・これは私たちが作った言葉ですが、最新の科学を分かりやすくトランスレートし、大学や企業、学校をつなぐコミュニケーターとして役に立ちたいと考えています。
科学の不思議に夢中!約200 の授業プログラム
リバネスでは、最新の科学技術を教育プログラムに取り入れた「サイエンスエデュケーション」を約200 種類開発し、“先端科学教室”として年間150 回以上の出前授業を実施。企業が持つ技術や研究の成果を、分かりやすく、楽しく授業に取り入れられると、学校からも高い評価を得ています。
【編集部より】
科学者とビジネスマンの両方の顔を持つ丸さん。「日本の子どもたちの将来の可能性を広げたい」と語るいきいきとした彼の目は、まるで好奇心旺盛な一人の小学生のようでした。子どもの未来のために、実社会や技術の"今"を授業に上手に取り入れていくこと、そんな動きを社会全体がサポートしていく環境作りが、これからどんどん進んでいきそうです。