2013年 冬号
目白大学外国語学部英米語学科教授 岡秀夫さんに聞く
【外国語活動の必修化から2年】小学校の教育現場に求められるもの
異文化への気づきが学習の〝種〟に
学習指導要領で、小学校での外国語活動が必修化されて2年。教材も「英語ノート」から「Hi,friends!」に変わりました。小学校での教育現場に求められることについて、英語教育のエキスパートでもある目白大学教授の岡秀夫さんに聞きました。
語学のスキルよりも体験や興味を大切に
―外国語活動の授業が始まって2年になりますが、教育現場の状況をどう見ていますか?
“私の印象では、うまくいっている学校とそうでない学校とバラつきがあるように思います。それは個々の先生の温度差、地域による熱意、教育委員会の温度差によると思います。政治的レベルの問題では、導入する前に指導者の再教育をすべきだったということ。韓国のように事前に研修を積めばよかったとも言われますが、そういった条件整備ばかり言っていると、いつまでたっても整わないので、どこかで決断しないといけなかったわけですが。
―外国語活動に期待されていることとの乖離があるのですね
学習指導要領にも書いてあるように、外国語活動の授業は、異文化体験、英語のスキル、コミュニケーションへの関心・意欲と、3つのレベルがあると思います。その3つがバランスよくいけばいいのですが、多くの方がスキルに期待します。でも、週1コマしかないのですから、スキルより他の2つを育てるのが適切だと思います。異文化体験というのは世の中を見る目を肥やしてくれるし、日本語も鋭くなります。〝Because….とちゃんと理由を述べることも知ります。それには生のものを見せる、聞かせること。そして、先生がうまく橋渡しすること。臨場感ある場面を設定してあげると、児童も体で体験的に言葉が身に付きます。総合的な学習の時間もそうですが、ほかの教科と連動させていくと、子どもたちに気づきを与えられると思います。そのアイデアを進めると、CLILという、言語と教科の内容を結びつけた学習法や、ほかの教科を英語で教えるイマージョンという教育法になるわけです。
核となる教員を決めカリキュラムを作る
―「英語ノート」が改訂されましたが。
「英語ノート」はとにかく量が膨大でした。こなそうと思うと、消化不良に。今回は、かなりスリム化してすっきりしたものになっています。これをひとつのガイドラインとして、先生が現場に合った年間計画を立て、その構成の中で「 Hi, friends!」の使えるところを選んでほしいです。よく言いますが、「教科書を教える」のではなく、「教科書で教える」ですよね。先生の方に主体的なカリキュラム案があって、必要なものを「 Hi,friends!」からもってくるという使い方で有効な教材になりうると思います。今後の方向性としては専科教員を置くのが効果的かと思いますが、まずは各学校に1人ずつ核になる教員を育てること。1人いれば、その先生を中心に年間カリキュラムを作り、みんなでサポートする体制ができます。
―授業のテーマ・内容のヒントをください
これまでは、楽しみを優先しすぎていた面がありました。歌ってゲームをする、お祭りごとばかりです。でも、週1回、年間を通して授業するのですから、計画性を持ち、他教科との連携も必要ですよね。社会科、家庭科、総合学習と連携して、興味のわきそうな地域密着の名物などを取り入れ、〝"funny"ではなく、楽しく興味深い"interesting"に向かってほしいですね。
小学校の活動は種まき中学校で芽が出ればいい
―小学校の「外国語活動」では、どこまでの成果を求められているのでしょうか?
学習指導要領には「素地」と書かれています。英語の発音や異文化コミュニケーションに対する態度を素地として作っておけば、中学校で発展できます。素地を作るために「種をまいておく」ということですね。そこから中学校で芽が出ればいい。これまでのように中学校からスキルだけをやっていると、そこから幅が広がりません。
―いい素地を作るためのアドバイスを!
まずは先生自身が自分で外国語の幅を広げること。本来は研修が求められると思いますが、映画を見てもいいし、本を読んでもいい。結局はコミュニケーションですから、外国人と接してみること。子どもにさせたい体験と同じです。無理に英語で会話しなくても日本語ができる外国人と接してもいいんです。そうすると、物の考え方や習慣の違いに気づく。ALTの先生はどこの地域でもいますし、PTAでも外国人の方が増えています。あとは知的好奇心を持って、いろいろな体験をしてみてください。例えば、贈り物をするのに「つまらないものですが.」という日本語の言いまわしは、英語にはない表現です。子どもにそんな気づきを与えられると、異文化に興味を持つようになると思います。
カリキュラム・時間割作成の5つのヒント
- 【1】材料は「場面」や「機能」を重視
- 知識を系統的に学ぶことより、学校・街といった「場面」や、頼む・謝るといった「機能」を素材にシラバスを作る
- 【2】らせん状に同じ表現に出合う
- 語学は繰り返しが大事。新しいフレーズばかりではなく、既出の内容を意識的に取り入れ、同じ表現に出合えるスパイラル(らせん状)な配置を
- 【3】ALTの背景を最大限に生かす
- ALTやゲストティーチャーとの時間は異文化に触れる機会。ALTの個性や文化的背景を活用する授業を工夫する(ALTを発音のお手本だけに使っていたらもったいない!)
- 【4】他教科との連携をつくる
- 社会で習った地名を英語のクイズの題材にしたり、家庭科の食べ物の語彙を英語に取り入れたりするなどして、他教科と連携を図る
- 【5】毎日、短時間でも英語に触れる
- 言語修得の点から考えると、5分間でも毎日英語に触れることが大事。帯状の時間で歌やチャンツなどを取り入れ、表現に慣れる機会を作る
小学校外国語活動の進め方「ことばの教育」として(成美堂)岡秀夫・金森強 編著
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