チャイム 2013年春 首都圏版
5/32

は「同僚性」の構築です。教師の専門性を高めるには、一人残らず、教師が相互に授業を観察し合って学び合わなくてはなりません。年3回の研究授業では変わりません。3年で100回はやらなくては。―公開授業の意義はどんなところにありますか。 教師の成長には2つの面があります。一つは技法とスタイルを持つ職人としての成長。言葉の使い方、間の取り方、子ども同士のつなぎ方…。いったんは先輩を模倣して自分のスタイルをつくる。ところが、子どもの扱い方や学級運営はうまいのに、授業の中身が乏しい先生がいる。もう一つの面、知識と理論が欠けているのです。教科書を教えることはできても、算数が持っている数学的意味を教えることができない。教科の教養、教育学の教養、この知識レベルを上げないと。2つのどちらが欠けてもダメ。それを育てるのが現場と大学の共同であり、授業の事例研究です。―いわゆる「よい授業」はどんなものですか。 よい授業を作ろうとするところに実は落とし穴があります。よい授業なんていらない。大切なのは、一人残らず安心して学べる関係作りと、夢中になって学べる授業作りです。子ども一人では高いレベルに到達しません。学びをつなぐことが大切です。「聴く」「つなぐ」「もどす」(別項参照)。これが教師の仕事です。子どもたちが夢中になり、高いレベルに挑戦できる授業をするのは、よく聴ける教師であり、つなぐ仕事を丁寧にやっています。ヘタな教師は、自分で先に引っ張っていこうとしますが、良い教師は、子どもを後ろに引き戻して大きくジャンプさせる。授業研究の良くない所は、批判など評価と助言ばかりで学ぶことをしない。僕も1万回以上授業研究をしていますが、助言は絶対しない。自分が学んだことを伝えるだけです。正解が、百通りある教え方の議論をしてもしょうがない。子どもの学びがどこでつまずいたのか、どこに可能性があったか、研究をする。従来のように教材を研究して、発問を研究して検証していくという形から抜け出さないと専門性や同僚性は育ちません。―〝質の高い授業〞ジャンプの課題について教えてください! 一つの単元に取り組む前に、新書一冊でいいから読んでください。その単元の世界を知るのです。そして思い切って挑戦すること。たとえば、かけ算は九九から入らなくて、ダースから導入した方が良い。大切なのは一あたり量。「4+4+4」は「4と4と4を足す」のではない、「4のまとまりが3つある」…。教材の本質をみたらジャンプ課題の必要性がわかります。ジャンプ課題を入れるもう一つの意味は、できない子ほどジャンプ課題に夢中になるということ。基礎がわからないのに発展問題は無理だと思うでしょう。それは一人でやらせるからです。できない子どもは応用によって「あ、こういうことだったのか」と基礎を理解する。思考力、探究力が先に伸びて、知識はあとからついてくる。協同の学びが成立することで飛躍的に伸びるのです。―小学校の先生にエールを。 竹のようにしなやかに。竹が軽やかなのは、根がしっかりしているから。これが教養であり、思想であり、哲学です。同僚から学び、経験に学び、子どもに学ぶ。そのしなやかさで教育を創っていきましょう。「学び合い教師の「行動する教育学者」学習院大学教授・東京大学名誉教授 佐藤 学さんに聞く〝ジャンプ課題〞で学力が飛躍的に伸びる学びの流れを〝切って〟いませんか?授業の質を高める「聴く」「つなぐ」「もどす」はたらき「学び」を中心にすえた教育、授業改革の実践プロセスをわかりやすく解説。2000年刊「授業を変える学校が変わる―総合学習からカリキュラムの創造へ」(小学館)「協同学習」「学びの共同体」など、佐藤さんの学校改革を体系的にまとめた一冊。2006年刊「学校の挑戦―学びの共同体を創る 」(小学館)国内・海外を含め「学び合う教室」「学びの共同体」創りに挑む教師二十数人の授業例を詳しく紹介。2003年刊「教師たちの挑戦―授業を創る、学びが変わる」(小学館)● 「聴く」一人一人の子どもの発言を味わい深く受け止め、ときには「○○というんだね」とリボイス(再話)してほかの子どもたちに返す。その発言がテキストやほかの子のどの言葉に触発されたものか、その発言がその子自身の前の発言とどうつながっているかを認識しながら聴く。● 「もどす」「次はどうするか」を意識するあまり、一部の子どもの発言を頼りに「前へ」「前へ」進行することに傾斜しがち。結果、多数の生徒が置き去りにされる。流れをもう一度、テキストやグループへの話し合いへ「もどす」ことこそが、学びの質を高める。● 「つなぐ」教材と子ども、子ども同士、知識と知識をつなげる。「他に意見は?」「○さん、どう思う?」という問いかけは流れを切っている。「なんで、そう思ったの?」ではなく、「どこからそう思ったの?」なら、「教科書のここに書いてある」「○さんが、そういって考えた」と授業のつながりが生まれる。子どもが小さい声で発言したときも、「聞こえなかったから、もう1回大きい声で」ではなく、「面白いこと言ってくれたね。もう1回、みんなで聞こう」とつなげる。「学び合う教室」学校改革3部作いずれも佐藤 学 著

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です